ふと、ある年配のご夫婦のことを思い出しました。
わたしが美容師をしていた頃のお客さまで、Nさんというご婦人。
たしか83歳で、だいぶ痴ほうが進んでいる状態でした。
いわゆる老老介護で、90歳近いご主人が付き添って、月に一度はご来店くださいました。
ある程度の年齢の方ならご存知だと思うのですが、Nさんご夫婦は、まさに「チャーミーグリーンのカップルの50年後」という感じ。いつも一緒で仲の良いご夫婦でした。
よく二人で手を繋いで歩いておられましたが、それはいたわりあっての手繋ぎ。若いころのそれとは、少し意味あいが変わってくるのです。
「夫婦円満の秘訣はなんですか?」
当時、独身だったわたしは、Nさんのご主人に聞いたことがあります。
『毎晩寝る前に、今日もありがとうねって、ふたりで握手をするんだよ。
僕たちくらいの年齢になるとね、明日の朝、目が覚めるとは限らないだろ?
これがお別れになるかもしれない。だから、ありがとうを言っておくんだ。』
そう答えてくれました。
今でもふと、この言葉を思い出します。
この言葉を思い出すのは、すべてが「あたり前」になった時。
自分がどこかに感謝を忘れていることを、教えてくれるのです。
愛する人がそばにいてくれることが、あたり前にならないように。
ありがとう、ごめんなさいが、ちゃんと言えるように。
愛していますと、たまには言えるように。
忘れないように記しておきます。